世界26か国の食べものを紹介した、楽しい大判絵本!
出版社エディターズブログ
2024.09.13
世界40か国以上で翻訳出版され、数々のベストセラーを生み出してきたヒド・ファン・へネヒテンさん。ベルギーを代表する絵本作家です。
今年2024年は、日本でも多くの親子に愛されている『ちっちゃな おさかなちゃん』(Gakken)や、『おむつのなか、みせてみせて!』『だ〜れだ?』『たれみみうさぎのリッキ』(以上パイ インターナショナル)の4シリーズが、それぞれ周年をむかえました。
Gakkenとパイ インターナショナルは、この周年に際して、同じ原作者の作品の翻訳出版を手がけた出版社どうし、ヒドさんの絵本をいっしょに盛り上げていきます。
このコーナーでは、ヒドさんの合同インタビューを3回にわたって公開していく予定です。
合同インタビュー第2回の今回は、各作品の主人公への思い、魅力的な作品を生み出すヒミツ、そして、作品作りの上で重要な存在である奥さまのご意見など、いろいろなお話を聞かせていただきました。
1957年ベルギー生まれ。モルの美術学校で、絵、グラフィックアート、写真を学ぶ。1998年に絵本『Rikki』で「ハッセルト市国際イラストレーター賞」を受賞。また、最高の児童図書の挿絵画家に贈られる「最優秀児童図書リーダーズ・ダイジェスト賞」や、オランダで「今年の絵本」に選ばれている。
今年、原作誕生20周年をむかえた「ちっちゃな おさかなちゃん」のシリーズ。長く愛されることにつながった、ヒミツのくふうはありますか?
ヒド・ファン・へネヒテン(以下ヒド): 「おさかなちゃん」のシリーズは、実は小さなこども向けのちょっとした知育を盛りこんでいます。たとえば1冊めの『ちっちゃな おさかなちゃん』は色。そして『おさかなちゃんの おいでおいで』は数、『おさかなちゃんの ぴんぽ〜ん』は反対語……というふうにね。そのほかにも、場所、動きなどの言葉や感覚を、物語を通じて自然に学べる巻があります。
『ちっちゃな おさかなちゃん』は、ページをめくるたび、新しい色の海の生き物が現れる内容で、背景にも、生き物の同系色が使われていますよね? 0〜3歳にも構成が理解しやすいのか、こどもの「食いつき」がよい(笑)と評判だったので、日本語版では思い切って、おさかなちゃんの物語のすべてを、この色変化ルールでまとめさせていただきました!
ヒド: 日本語版は、ベルギー原作(2〜4歳対象)とちがって、もっと幼い読者(0〜3歳対象)です。その年齢の子たちが理解しやすく認識しやすいように、細かなニュアンスまでくふうされていると感じます。表面がラミネートのように加工されていることも、黒背景とのコントラストが美しく映えて気に入っています。
ヒドさんにとって、主人公やストーリーは大事なKidsだとうかがったことがあります。「おさかなちゃん」を制作する際、このKidsにどんな思いをこめながら、作品作りを進めたのでしょう?
ヒド: 読み手のこども自身の感情に目を向けました。ちっちゃなおさかなちゃんに共感し、おさかなちゃんを身近に感じて、おさかなちゃんになったつもりで、読んでほしいと思いました。
「おさかなちゃん」と同じく0歳から読める作品に、『だ〜れだ?』のシリーズがありますよね? こちらは、ページをパカッと開くしかけのある、楽しい絵本ですが、どんなテーマで作られたのでしょう?
ヒド: このシリーズのテーマはずばり「変身」です。何かが形を変えて、他の何かになること。どこか魔法みたいですよね。小さなこどもにとって、それが一番の魅力になっていると思います。
一度読めば、何が起きるかはわかってしまいますが、それでも変身の喜びは消えることがありません。ページをめくったときに、まだ見たことのない何かに変わる可能性も、どこかに残っているように感じるはずです。
たしかにこどもは、気に入った絵本を何度も「読んで〜!」と持ってきますよね(笑)
ヒド: 何が起きるか知っていること……つまり知識は、こどもに「力」を与えます。
ちなみに、同じシリーズの『な〜んだ?』では、動物と道具などが同じフィクションの世界に存在していてつながっていることも、とても魅力的だと思っています。
こどもにとっては、現実世界のすべてが “生きているもの”なのです。わたしはこどもの持つ、こうした“詩的な感覚”が大好きです。大人も学ぶべきところですよね。
なるほど! 『な〜んだ?』では、わにさんのしっぽをのこぎりに見立てたり、想像力を刺激するしかけが印象的ですね。そのようなアイディアは、どんなときに思いつくのですか。
ヒド: 最初のアイディアは(しばしば最高のアイディアでもあるのですが)、単純な連想から生まれます。わたしの頭の中では、「のこぎり」と「わにのしっぽ」が隣に並んでいるんです。「へび」と「ぞうの鼻」も同様に隣合わせです。
そんなわけで、天才にはなれませんでしたが(笑)、絵本作家としてはそのことが役に立っていると思います。
話は変わりますが、ヒドさんにとって最初の受賞作でもある「リッキ」は、3歳くらいからおすすめの物語ですよね。この作品にこめたのは、どんな思いだったのでしょう?
ヒド: 『たれみみうさぎのリッキ』は、「みんなとちがう自分」を認めること、そして自分の居場所を見つけることがテーマです。みんなとちがっていてもいいんだ、と思えるまでの苦しみも描いています。
ところで、人気シリーズの主人公でもある、おさかなちゃん、ねずみくん、リッキについて質問させてください。それぞれ何歳で、どんな性格なのですか?
ヒド: 大きい子順に説明していきますね。まずリッキは4歳で、この中では一番お兄さんです。お友達と見た目がちがうところもあるし、それがきっかけでからかわれたり、少し複雑なストーリーになっています。
コンプレックスがあるからこそ、リッキには思いやりがあり、お友だちや家族のことをよく考えています。
また好奇心もいっぱい。いろいろな夢をみて、広い世界に飛びこんでいきます。
困っている人がいたら助けたいし、人の役に立ちたいと思っています。
この絵本を読むこどもたちと同じようにね。
ヒド: ねずみくんはもう少し年下です。1冊めでは、まだおむつをつけています。
ねずみくんは、まわりのお友達の1歩先をいく存在です。それはきっと、好奇心でいっぱいで知りたがりだから。いろいろなことを経験して、得意なことを増やしているのですね。そして、自分で発見したことは、なんでもお友達に教えてあげるのです。
「リーダー的存在」でユーモアがあり、お友達はねずみくんのことを「すごい!」と思っています。
ヒド: おさかなちゃんは一番年下。生まれたての時期から数年間、いろんなことを体験して覚えて吸収していく年齢です。
おさかなちゃんの虹色の背は、おさかなちゃんが周りと調和していることや、周りの環境がおさかなちゃんに影響を与えていることも表しています。
また、白は光、純粋さ、可能性、未知を表す色でもあります。
そういえば、おさかなちゃん、ねずみくん、リッキの性格には、なんだか共通点があるように感じるのですが……?
ヒド: 3人の共通点は「好奇心」だと思います。こどもはみんな、好奇心旺盛ですよね。でも、何に興味を抱くかは、それぞれちがいます。そのちがいこそが、3人をただひとりの生き生きとした存在にしているのだと思います。
おさかなちゃん、ねずみくん、リッキには、どこかヒドさんと似ているところがありますか?
ヒド: わたしの描く絵はどれも、セルフポートレートのようなものです。アーティストはみんな、どことなく自分の作品に似ているんじゃないかな(笑)。おさかなちゃん、ねずみくん、リッキも、わたしから枝分かれした存在で、見た目も性格も、わたしに似ています。だからこそ、この3人は、唯一無二の存在なのだと思います。
仮に、だれか他の人に似ていたら、どうでしょう? わたしはこの3人のことがわからなくなって、ちょっと困ってしまいそうです(笑)。
でも、大丈夫。わたしは、3人がそれぞれ何を考えていて、どうしてそうなのか、どうしようとしているのか、ちゃんと理解しているよ。
以前のインタビューで、奥さまは絵本制作に欠かせない存在だとうかがいました。奥さまや、担当編集者のシグリッドさん(ベルギーの原作出版社Clavis Uitgeverijの編集者さん)、そのほかヒドさんの周囲のかたは、この主人公3人について、なんておっしゃっていますか? 物語中の表情や考え、行動などがヒドさんに似ていると言われたことは?
ヒド: あはは。みんな明らかに「あなたに似てる」と言っているね(笑)! 妻のイーダは今でも、わたしのことを繊細で好奇心旺盛、遊び心にあふれ、やさしいところも少しはある……と思ってくれているようです。もちろんわたしも、イーダのことを、とってもやさしい女性だと考えているよ。
まあ冗談はここまでにして、確かに表情やたたずまい、動き方は似ていますね。
笑顔のリッキを描いているとき、わたしは同じようにニコニコしているし、リッキがジャンプすると、わたしも自然にジャンプしてしまいます。
主人公たちと同じで、わたしもかくしごとができず、うそがつけないたちです。6歳のときにはもう、うそをつこうとしても、母にすぐ見破られていたなあ(笑)。じっと目を見つめられるだけで、本当のことを言ってしまったものです。
ちなみに、目というのは、主人公の個性が一番よく表れるところだと思います。主人公の目を見たら、わたしがどんなメッセージをこめたのか、わかってもらえるはずです。
おさかなちゃん、ねずみくん、リッキの目をよーく見てみて。その目を通して、読者のみなさんは、作家であるわたしの目をのぞきこんでいるんですよ。
「おさかなちゃん」「ねずみくん」「リッキ」のシリーズで、奥さまのイーダさんが一番お好きな巻はどれでしょうか?
ヒド: 妻のイーダは、誰より頼りになるご意見番です。スケッチの段階から、絵本ができあがるまで、わたしがつくるものをすべて見ていますからね。
そしてイーダは、作品に順位をつけるということはありません。
とはいえ、リッキはわたしの家族や友人たちにとって、特別な存在です。いつの間にか、家族の一員のようになっていたんです。
わたしが一番大切に思っているのは、リッキのシリーズの1冊め『たれみみうさぎのリッキ』です。この絵本を制作しながら、多くのことを学んだからです。自分のことも、とてもよく理解できるようになりました。
そういえば、妻のイーダはサウンドブックの『ちっちゃなおさかなちゃんと うみのおんがく(未邦訳)』が大好きですね。おさかなちゃんの声や音楽を聴くことができるんです。この絵本をプレゼントとして贈ったことも何度かあって、親戚のこどもたちにも大人気ですよ。
『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ、『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズの主人公は、それぞれ、さかな、ねずみですが、その生き物を選んだ理由はなんだったのでしょう?
ヒド: 主人公は「選ぶ」のでも「探す」のでもなく、直感的に「見つける」ことがほとんどです。
おさかなちゃんを「見つけた」のは、落書きをして遊んでいるときでした。
そのころわたしは、あまり凝っていないシンプルな絵を魅力的に感じていました。前もって計画を立てたりせず、自由に描いているうちに、おさかなちゃんが生まれたのです。
何かを「見つける」には、目の前のことと向きあい、新しい出会いを受けいれる必要があります。ずっと絵を描いてきましたから、何かが生まれようとしているのだということはすぐにわかりました。
そういう創造の瞬間に感じる喜びは、何ごとにもかえがたいものです。
ヒド: ねずみくんは、試行錯誤するうちに生まれました。
はじめは、あひるの子を主人公にするつもりでした。よちよち歩く、かわいい黄色のあひるに、おむつをつけてみました。
でも、小さくてかわいらしいあひるは、おむつの中を見たいとは思わないんじゃないかと感じるようになって…。元気いっぱいのねずみを描いてみたらどうだろうと、ひらめいたのです。あひると同じなのは、黄色い洋服だけ。
寄り道していなければ、このお話は生まれませんでした。だからこそ、ねずみくんを「見つける」ことができてよかったと思っています。小さなねずみくんが大好きですから。
では、うさぎのリッキを「見つけた」ときは、どんなだったのですか?
ヒド: リッキのときは、うさぎがぱっと頭に浮かび、すぐにこれでいこうと決めました。想像力という魔法が働いたのだというしかありません。というより、うさぎがわたしを見つけてくれたのかもね。
リッキという主人公に出会うことができて、うれしく思っています。
ふだん、作品作りに使っている画材や、くふうしている表現テクニックについて教えてください。
ヒド: わたしは、どこかアナログで、きちっとしすぎていない、完璧ではない絵をめざしています。完璧でないのは、人間も同じですよね。だからこそ魅力的なのだと思います。そういう絵を描けば、思いを伝えることができます。
おさかなちゃんには、新聞やいろいろな素材を切り貼りしたコラージュを用いています。それに絵具を塗るだけではなく、型押ししたり、ひっかいたり、絵具を飛びちらせたり…。大きなシーツをキャンバスがわりに、いろいろなことを試しています。そのおかげで絵に奥行きとテクスチャーが生まれるのです。
ヒド: 『だ〜れだ?』のシリーズには、(機械ではなく人が作った)本物の絵具と本物の紙を使いました。小型の包丁で(うちで育てた)ジャガイモのスタンプを彫りました。そのスタンプを使って模様(金魚のうろこ、てんとうむしの点など)、濃い色の部分、水の泡、葉を描きました。
違うテクスチャー(雨など)を表現するために、色鉛筆も使いました。
紙を切り抜いて、貼りつけたところもあります。
ヒド: ねずみくんはガッシュ(不透明な水彩絵具)で描いていますが、コラージュの手法も使っています。他の作品よりかっちりしていて、色が明るく、こどもにとって読みやすい作品をめざしました。
リッキは、フリーマーケットで見つけた、黄ばんでしまった古いグラフ用紙に、ガッシュを使って描きました。絵の下にグラフ用紙のマス目がのぞいている箇所もあります。それが未完成な雰囲気をかもし出しているところが気に入っています。
ヒド: 2018年以降は、デジタルでも作業を行うようになり、主に「Procreate」というスケッチ・ペイントアプリを使用しています。このアプリのおかげで、デジタルとアナログをいろいろな方法で組みあわせることができるようになりました。
無邪気な遊び心とたくさんのくふうで、世界中のこどもたちの興味をギュッとつかんだ、ヒド・ファン・へネヒテンさん。
日本での評判を聞いてどのように感じているかをきいたところ、またまたハッとさせられる言葉が返ってきました。
「わが家のアトリエで、ある日の朝、あるいは何もやることがない日曜の午後に考えついたものが、作品となって多くの人に読まれ、日本のこどもたちが楽しんでくれていることを考えると、いつもうれしい驚きを感じます。絵本が、ここベルギーと日本をつないでいるのですからね、びっくりしてしまいます。読者のみなさんの愛を感じられることが、何より幸せです」
主人公同様に、自由でピュアで想像力豊かで、チャーミングなお人柄。その作品たちを、ぜひ手にとってみてください。
©Clavis Uitgeverij, Hasselt-Amsterdam-New York. All rights reserved.
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