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出版社エディターズブログ
2024.04.26
ベルギーを代表する絵本作家ヒド・ファン・へネヒテンさん。その作品は世界40か国以上で翻訳出版され、各国でベストセラーとなっています。日本でも『おむつのなか、みせてみせて!(パイ インターナショナル)』、『ちっちゃな おさかなちゃん(Gakken)』をはじめ、親子に愛される人気作品がいっぱい。
今年2024年には、ヒドさんが作・絵を手がけた「ねずみくん」「おさかなちゃん」「リッキ」という3つの人気キャラクターの絵本がそれぞれ周年をむかえました。
Gakkenとパイ インターナショナルは、この周年に際して、同じ原作者の作品の翻訳出版を手がけた出版社どうし、ヒドさんの絵本をいっしょに盛り上げていきます。
このコーナーでは、ヒドさんのインタビューを春、夏、秋の3回にわたって公開していく予定です。第1回(春)は、ヒドさん自身のことを知る回。こどものころのことや、絵本作家になったいきさつ、アトリエの様子、普段の生活、創作活動のこだわりなど、いろいろなお話を聞かせていただきました。
1957年ベルギー生まれ。モルの美術学校で、絵、グラフィックアート、写真を学ぶ。1998年に絵本『Rikki』で「ハッセルト市国際イラストレーター賞」を受賞。また、最高の児童図書の挿絵画家に贈られる「最優秀児童図書リーダーズ・ダイジェスト賞」や、オランダで「今年の絵本」に選ばれている。
2024年は、ねずみくん15周年、おさかなちゃん20周年、リッキ25周年という、記念すべき年ですね。世界中で大ヒットした3つのシリーズが周年をむかえた今のお気持ちをお聞かせください。
ヒド・ファン・へネヒテン(以下ヒド): この3つのシリーズを心から誇りに思います。多くのこどもたちがわたしの絵本を読んでくれたのだと思うと、あたたかな気持ちになります。
◆『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズ(パイ インターナショナル)
《第1作めのストーリー》こどもが喜ぶ「うんち」がいっぱい! 知りたがりやのネズミくんは、みんなのおむつのなかがどうなっているのか知りたくてたまりません。「おむつの なかを みてもいい?」「いいよ。さあみてみて!」最初に見せてくれたのは、うさぎくん。おむつをめくると出てきたのは…ころころうんち! そうして、やぎちゃん、こいぬくん、うしちゃん…と、次々にちがうタイプのうんちを見せてもらったねずみくん。じゃあ、ねずみくんのおむつのなかは…??
◆『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ(Gakken)
《第1作めのストーリー》ちっちゃなおさかなちゃん、まいごになっちゃった。「ママ〜、どこ?」ママをさがしていたらね、海の仲間がやってきたよ。赤い姿のてとてと、オレンジ色のつんつん、黄色いぐるりんこ、緑色のひょっこり…。次々に出会うみんなは、おさかなちゃんにやさしく声をかけてくれます。ひろ〜い ひろ〜い海のなか、おさかなちゃんはママにめぐりあえるかな? 読み手の心のなかにある「想像の海」を舞台に、ユニークな海の仲間たちとくり広げられる小さな冒険物語。
《第0巻のストーリー》日本からベルギーの原作者に提案し、全世界に向けて実現! ひろ〜い ひろ〜い海のなか、おさかなちゃんが うまれたよ! 「ママですよ〜」テレながら初めての声をかけるママ。わが子の誕生を海じゅうに知らせてまわるパパ。知らせを聞いてお祝いにおとずれる海の仲間たち。紫色のくにゃ〜るは、うれしくって長いあしをくにゃっくにゃっ。ピンク色のぴぴんたちは、うれしくってぴぴんぴん!ととびはねて…。「かわいいなあ」「ママに似ているね」「パパにも似ているよ」そんな誕生の喜びいっぱいの物語。
◆たれみみうさぎのリッキ(パイ インターナショナル)
《ストーリー》うさぎのリッキの耳は、なぜかいつも右の耳だけ、ダラーンとたれさがっています。みんなが「たれみみ」と笑うので、ピーンと立った2本の耳がほしくてたまらないリッキ。いろいろな方法で耳をのばそうとしますが…。みんなとちがうということは、本当におかしなことなのかな?「見た目も、性格も、考え方も、それぞれちがっていていいんだよ」「きみはきみのままでいいよ!」と教えてくれる物語。「ハッセルト市国際イラストレーター賞」受賞作品。
ヒドさんが幼かったころのことを教えてください。絵本を読むのは好きでしたか。また、お気に入りの絵本はありましたか。
ヒド: わたしがお気に入りだったのは、明るい青の表紙の大きな絵本。白雪姫、シンデレラ、ヘンゼルとグレーテル、親指トムなどおとぎ話がたくさん収録されていて、その絵をながめているのが大好きでした。
ご両親はヒドさんが幼いころどんな接し方をしてくれましたか。
ヒド: 両親も祖父母もとてもあたたかく、愛情たっぷりの家庭で育ちました。小さな村に住んでいたので、自然を身近に感じながら大きくなりました。そのころから想像力がたくましく、いろいろなことを空想していました。こどもはみんなそうですよね(笑)。
ステキな環境でのびのびと育ったのですね。ところで、幼いころ、家に絵本はどのくらいありましたか。また、ご両親に読み聞かせをしてもらった思い出はありますか。
ヒド: 実は、家には絵本はあまりありませんでした。コミックや雑誌はたくさんあったけどね(笑)。両親に読み聞かせをしてもらった記憶もないなぁ…。
でも、母は童謡をたくさん歌ってくれて、父は馬と遊ばせてくれました。祖母はおもしろい民話やなぞなぞをたくさん教えてくれました。
歌や民話、動物とのふれあいなど、家族を通じて体験したことのなかで、今につながる創造力が芽生えていったのですね。絵本作家になろうと思ったのは、そういった経験からでしょうか?
ヒド: 絵を描くことを仕事にしたいとはずっと考えていました。でも、絵本の世界を発見したのは、妻が図書館で働いていたからなんです。
絵本を描いてみようと思い立ち、試行錯誤のすえに、ようやく満足のいく作品ができあがりました。わたしの作品は99%の努力と1%のひらめきからできているんですよ。
奥さまがきっかけで絵本に興味が芽生え、絵本作家をめざすことにつながるとは、ロマンチックですね。みごと夢をかなえ、世界中で大人気の絵本シリーズがたくさん出版されている今、ご自身にとって、絵本作家という仕事の魅力はどんなところでしょう?
ヒド: 絵本作家とは、わたしにとって、情熱を注ぐことができる仕事。大好きな絵を描くことだけではなく、物語をつむぐこともできるのですから。
現在、ご自身以外の作品で好きな絵本はありますか。
ヒド: マーティン・ワッデルの『OWL BABIES』(日本語版は『よるのおるすばん』評論社)が好きです。パトリック・ベンソンの絵がすばらしくて、ページをめくるたびに感動します。どのページの文と絵も、そらで覚えているくらい何度も読み返しているよ。それでも読むたびに胸がいっぱいになるんだ!
ご自宅にあるアトリエ(作業場)は、とてもすてきですね。そこでは、どのように過ごされているのですか?
ヒド: わたしにとって、仕事と生活は一体なので、気がむくままに行き来しています。
わたしは「主夫」でもあるので、毎日料理しますし、掃除や庭いじりをすることもあります。つまり、ときどき仕事からはなれ、気持ちを切りかえて、また仕事にもどるのです。ジャガイモの皮をむいているときに、絵本に使えそうな言い回しがとつぜん頭にうかんで、あわてて書きとめることもあるんですよ(笑)。
家事をこなしながら、お仕事と両立されているとは! まるで物語の主人公のような、生き生きとした毎日なのですね。アトリエで気に入っているのはどんなところでしょう?
ヒド: アトリエには4つテーブルがあります。
小さな丸テーブルは代々伝わるもので、ここで朝食をとることもあります。庭の一部をみわたせる大きな窓のそばに置いてあって、このテーブルではよく書きものをします。
一番大きいテーブルは高さがありキャスターもついているので、太陽光に合わせて移動させます。このテーブルでは立ったまま絵を描いたり、素材を切り貼りしたりします。ダンスするように、体を動かしながら作業できるところが気に入っているんだ。
アトリエのすみの小さなテーブルにはパソコンを置いてあって、ここで絵本の文章を書いたり、完成した絵を確認したりします。
そして、大きな正方形のテーブルの上には、画集や絵本、参考資料、いろんなガラクタ、用紙などが山積みになっています。冬の間保存しているカボチャもあるよ(笑)。
ああそれと! 愛猫であり忠実なアシスタントのボビーが使っている、猫用クッションものっているね。
アトリエはとても落ち着く場所。ちょっと散らかっているけど、広く、明るく、すてきな空間です。新しい作品を描きはじめるときだけは、きちんと片づけるようにしているんだ。
絵本の創作中は一日にどれくらい、アトリエで作業をしているのですか?
ヒド: 完全に朝型なので、6時半に起きて、朝食を食べたらすぐ仕事にとりかかることが多いです。そのあと、午前中に料理をすませ、夕食を食べたあとは散歩したり、庭いじりをしたりします。夜になったらアトリエにもどって、おそくまで仕事をすることもあります。…といっても、日によって違って、毎日そうしているわけではないけどね。
ただ、ひとつだけ決まりごとがあるんだ。それは、仕事をしたいとき、気分がのっているときに、仕事をすること。
気分がのらないときに仕事をしても、いい作品はできないからね。そういうときはいったんやめて、頭をすっきりさせています。何もしないでぼーっとすること、あれこれ空想すること。絵本作家じゃなかったら、「仕事にもどれ!」って上司に怒られそうだけどね(笑)。
アイディアを「絵本」という形にしていくうえで、不可欠な人はいますか?
ヒド: 絵本の制作は、ともすれば孤独な作業です。ひとりで黙々と仕事をすることは好きですが、それでも相談役がほしくなることはあります。
友人は遠慮して、はっきり指摘してくれないのですが、妻は頼りになるご意見番で、率直な感想を聞かせてくれます。
Clavis Uitgeverij(ベルギーでヒドさんの作品を出版している原作出版社)のわたしの担当編集者のシグリッドもそうです。彼女とは、もう20年くらい一緒に仕事をしていて、時間をかけて信頼関係をきずいてきました。わたしの作品に敬意をはらってくれてるし、作品を通じて伝えたいことも完全に理解してくれています。彼女になら、まとまっていないアイディアも安心して伝えることができるし、意見が対立しても大丈夫。
シグリッドは常にわたしのことを信頼してくれています。いっしょに仕事をしていると、幸せな気分になれるんだ。
ほかにも、たくさんの人の意見や批評を参考にしますが、最終的に決めるのはわたしです。わたしは、少なくとも自分の作品に関しては、自分でコントロールしたいと考えています。色、レイアウト、文字、表紙、裏表紙、見返し、タイトルページなど、絵本に関することは自分で決めたいのです。もちろん、編集者やデザイナーと相談したうえでね。
クリエイティブな作業に集中したいので、出版、営業、版権、マーケティングなど、そのほかのことは出版社におまかせしています。
これまでをふりかえって絵本作家になってよかったと思いますか。
ヒド: もちろん! とても楽しい仕事だし、毎日新たな発見があり、何百もの物語をつむぎだすことができます。
何百という園をおとずれ、こどもや先生からとても多くのことを学んでいます。自分のペースで絵本を制作しながら、才能をみがくことができました。
今までわたしを支えてくれたすべての人に感謝しています。
無邪気でこどものようなピュアな感性と心を持ちつづけるヒド・ファン・へネヒテンさん。
幼いころはあまり絵本と接点がなかったようだけど、奥さまをきっかけに興味が芽生え、絵本作家の今にいたった…というエピソードは興味深く、改めて絵本という存在が、人生に与える影響を考えさせられました。
世代や文化の壁を超えて、世界中の親子の心をつかんで離さないヒドさんの作品たち。ぜひ手にとってみてください。
©Clavis Uitgeverij, Hasselt-Amsterdam-New York. All rights reserved.
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この書籍を作った人
1957年、ベルギー生まれ。ハッセルトの美術学校で、絵、グラフィックアート、写真を学ぶ。著者に『わらって!リッキ』(ハッセルト市の国際絵本賞を受賞)『リッキとアニー』『リッキのなつやすみ』『リッキのおともだち』『リッキのクリスマス』『リッキのゆめ』『リッキとにわとりのミア』(以上、「リッキ」シリーズ)、『おしりをだして』『みんなおやすみ』『ゆきがたくさんつもったら』『あなたのことがだーいすき』『だっこのえほん』『パパ、おばけがいるよ。』(すべてフレーベル館)など。ベルギーではもちろん、ヨーロッパ各国でも大人気の絵本作家。