「せんろはつづく」 シリーズや 「鳥の巣の本」 シリーズなどの人気作を世に送り出している絵本作家の鈴木まもるさんが長年温めてきたテーマ、「戦争」そして「平和」がついに一冊の絵本になりました。
物語の舞台は1914年、第一次世界大戦開戦からわずか5カ月後のクリスマスイブ。 最前線で戦うイギリス軍兵士は、その夜、敵側のドイツ軍から音が聞こえてくることに気づきます。 耳を澄まして聞いてみると、それはドイツ語で歌われた「きよし このよる」でした。
「きょうは12 月24日 、クリスマス・イブなんだね」 「そうだったな。ドイツにもクリスマスがあるんだなあ」 「こっちも、歌おうか」
イギリス軍の兵士が母国語で「きよし このよる」を歌うと、ドイツ軍から拍手が聞こえました。 続いてドイツ軍から別のクリスマスソングが歌われ、イギリス軍も同じ歌を母国語で歌いました。 そうして両軍でクリスマスソングを歌い合いながら、イブの夜は更けていきました。
翌日、ドイツ軍側から一人の兵士が武器を持たずにイギリス軍側へ歩いてくる姿が見えました。 イギリス軍の若い兵士も同じように武器を持たずにドイツ軍側へ歩いていきました。 鉄条網を挟んで向かい合った二人の兵士。 この後、二人は一体どうなったのでしょうか……。
これまでの鈴木まもるさんの作品の特徴である、色鮮やかなタッチをグッと抑え、 茶や黒など落ち着いた色を使った前半は、まるでモノクロ映画を見ているかのような深みを感じます。 そして後半に進むに従い、色が少しずつ増えてきて、最後の数ページの、目を見張るような鮮やかな空の色は、 100年前から現在に至るまで変わらないものがあることを私たちに示しているように感じます。
この絵本の「あとがき」の絵を描いているとき、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻のニュースが流れてきたそうです。 「まだ「戦争」を始める人間がいる現実に愕然としつつ、戦争よりも強い人のやさしさと想像力が描きたくて、絵を完成させました。」と語る鈴木まもるさんは、最後のページに民族衣装をまとったウクライナの子どもたちと「この星に、戦争はいりません」という一文を追加しました。
100年前に実際にあった出来事を描くことで、これから100年先の子どもたちへのメッセージを絵本で残したい。 そんな作者の強い思いを感じることのできる一冊です。
(木村春子 絵本ナビ編集部)
『この絵本の「あとがき」の絵を描いている時に、プーチン大統領のウクライナ侵攻が始まりました。まだ「戦争」を始める人間がいる現実に愕然としつつ、戦争よりも強い人のやさしさと想像力が描きたくて、絵を完成させました。』(鈴木まもる「制作ノート」より) 今から100年以上前の1914年、7月。ヨーロッパをはじめ、多くの国をまきこむ戦争がはじまりました。第一次世界大戦です。これは、戦争がはじまった5か月後の12月24日の夜に、フランスやベルギーにせめこむドイツ軍と、むかえうつイギリス軍との最前線で実際に起こったお話です。
ためしよみをさせていただいたのが
ちょうど『同志少女よ敵を撃て』を読み終え
主人公セラフィマが撃たんとしたのは
国家というより女性の尊厳を冒す戦争の狂気だったのではないかと感じた直後でした。
殺人は悪 誰もがあたりまえに思うことが
殺さなければ殺されてしまう戦時下では
よしとされてしまう…まさに狂気。
けれども人としてそれまで生きてきた中で培われた正しさ、やさしさ、思いやり。
それがクリスマスソングを耳にし、歌うことでわき上がってきたのでしょう。
言葉は通じなくてもメロディーは共有できるから
大切な日を共に祝い、大切な人との思い出を交換しあい
両軍は戦争をやめた。
もともとこの兵士たちは‘殺し合い’は嫌だったのかもしれません。
『せんろはつづく』では、かわいらしい絵面の鈴木まもるさんの絵がリアルで
それが実話に基づいていることを裏付けするようでした。
やがて8月が来ます。
かつての日本を想うとともに
ウクライナ、ロシア両国民の心の安寧を祈りたいです。 (白井音子さん 60代・その他の方 )
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