むかし、大きな国がありました。その国の大統領は「せかいじゅうの 人びとを しあわせにするため」に、いろいろな国へ戦争をしにいきました。自分たちと同じように暮らせるのだからと、次々に征服をしていったのです。
とうとう、征服されていない国はたった一つになりました。とても小さなその国だけれど、残しておくのも気持ちがわるいものです。ところがおかしなことが起こります。その国には兵隊がいないどころか、なんだか歓迎をしてくれているようにすら感じるのです。彼らはお互いにおしゃべりをし、歌をならい、台所に立ち、やがて仕事を手伝うように……! 戦いにもならないこの征服を終え、大統領は満足した表情で言います。
「せかいをすくう せいぎのみかた! 大きな国は つよい国!」
だけど本当にそうでしょうか? 彼が自分の息子に歌ってあげたその歌は……。
勇ましくも、どこか明るくユーモラスに描かれたこの物語。この絵本には、どちらが悪いとも、戦争が良くないことだとも書いてはいません。けれど、その奥には強い者のゆがんだ論理への皮肉がたっぷり込められているようにも感じます。
「どこかおかしい。何かがちがう」
くり返し読みながら、少しずつ生まれてくる様々な気持ち。その声に耳を傾けながら、大人も子どもも考え続けるきっかけとなってくれる絵本なのではないでしょうか。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「せかいじゅうの 人びとを しあわせにするため」に世界中を征服した、ある大きな国の大統領のおはなし。強者のゆがんだ論理を明るいユーモアで皮肉たっぷりに描いた寓話絵本。
親しみやすい絵の中で、とても大事なことを伝えてくれる本です。
「人間のしあわせのために世界を征服すればよい。」そんな言葉のためにどれだけ多くの過ちを犯したことか。子どもにとっては知らない世界かも知れませんが、大人は過去形としてかかえている。
過ちの愚かさをストレートにやさしく伝えてくれます。
強大国に勝ったのは武力ではなく、人間の心でした。言葉にするときれい事になってしまいますが、この絵本は見事に表現しています。
兵士を武力で迎えるのではなく、真心で迎える。兵士たちには闘争ではなく、生きる楽しさを伝える。それもさりげなく、さりげなく。
これは素晴らしいことです。
この絵本も強いて説得するのではなく、一番小さな国の住人のように描かれています。
気になったのは王様のこと。
王様は知らず知らず、子どもに小さな国の歌を歌ってあげます。王様が変わらなければ、兵士たちは板挟みです。
板挟みから平安は生まれない。
沖縄基地の問題と武力による抑止力を唱えている現在、この絵本を鵜呑みにしてはいけないかも知れませんが、大人も考えなければいけない問題として受け止めました。
ちなみにデビッド・マッキーさんはイギリスの風刺画家だそうです。納得しました。
エルマーのシリーズの中にも、マッキーさんの姿勢が反映されているのでしょうか? (ヒラP21さん 50代・パパ 男の子12歳)
|