昔むかしのお話。チベットのプラ国に、勇敢で心優しい王子様がいました。当時のプラ国には食べ物があまりなく、ヤク(毛の長い牛)や羊のお乳や肉くらいでした。しかし、山の神様のもとには、おいしい穀物のタネがあると知り、王子は旅に出る決意をします。
しかし、旅路は危険に満ちていました。山の神のもとへは、99のけわしい山と99の川を越えなくてはなりません。毒へびや猛獣たちがひっきりなしに襲いかかってきます。 ようやくの思いで山の神と会うことができた王子でしたが、そこで驚きの事実を知らされます……。
チベット族の主食はツァンパといい、大麦をいって粉にしたものに、お茶やバターを入れてこね、粘土状にして食べます。年間を通して食べる保存食でもあり、携帯食でもあります。チベットの人々にとって、命の糧であるツァンパ。その原料となる麦の来歴を語るのが、この民話なのです。
しかしなんと不思議で、奇想天外で、濃密なお話なのでしょうか。まるで、この1冊の絵本の中にたくさんの神話やおとぎ話、そして冒険物語がつまっているかのようで、読みごたえたっぷりです。美しく端正な絵が、時間も国も超えた物語世界へと誘ってくれます。 次から次へと襲いかかる危機を王子はどうやって乗り越えていくのか……。予想を超える意外な展開が待ち受けています。
「自分だけでなく、みんなを豊かにする」という王子の理念が、全編を通して貫かれているのが印象的です。読んでいるうちに、こちらの心も、豊かな気持ちに満たされるよう。昔から現在まで大切に語り継がれ、愛されつづけていることを感じさせる物語です。
(光森優子 編集者・ライター)
君島久子先生の文、後藤 仁の絵によって、岩波書店から出版された絵本です。 この絵本の出版は、岩波書店創立100周年、岩波の子どもの本創刊60周年を記念する出版事業の一環となります。文は中国文学・民話研究の第一人者である君島久子先生(国立民族学博物館名誉教授)によって過去に訳された「犬になった王子」(民話集『白いりゅう 黒いりゅう』所収、1964年、岩波書店)を、先生が絵本用に書き直されたもの。作画は私が、約20日間の「チベット・四川省写生旅行」の後、日本画を用いて一年余りをかけて丹念に描きました。中国の少数民族・チベット族に伝わる民話を元にしており、原話の題名は「青稞(チンコウ)種子的来歴」です。 〔絵本のあらすじ〕 穀物のない国の勇敢で心の優しい王子が、美しくて思いやりのある娘ゴマンの愛によって救われ、苦難の旅を乗り越え麦のタネを手に入れるまでを描く、壮大な冒険物語です。犬になった王子の姿は、気高くもかわいらしいです。宮崎駿「シュナの旅」(徳間書店)(のちにスタジオジブリのアニメ映画「ゲド戦記」の原案となる。)の原話にもなった名作を初絵本化。チベットの民話。 日本画家・絵本画家 後藤 仁
プラ国では、食べものといえば、羊やヤクの乳と肉ばかり。アチョ王子は、言い伝えにきいた、おいしい食べもののできる穀物のタネをもとめて旅にでます。ロングセラー『白いりゅう黒いりゅう』の中でも人気の高い民話を、はじめて絵本化。いくつもの試練を乗りこえていく王子の勇気と感動の物語を、美しい日本画で丹念に描きます。
チベットの主食である大麦の由来についての民話を丁寧に再話した作品。
チベットのプラ国のアチョ王子は、国の人々のために、穀物の種を得ようと、
山の神のところに出かけます。
同行の家来も脱落していくほどの、険しい道程を経て、
ついに山神のところへたどり着きます。
山神は、穀物の種のありかを教えてくれますが、またまた、難関が待ち受けます。
竜王に犬に変えられても、山神の忠告に従い、根気よく目的を達成するのです。
穀物の種のありがたさが伝わってきます。
妻となるゴマンという娘との交流も丁寧に描かれます。
アチョ王子、ゴマン、山神、竜王、犬など、それぞれの造形が素晴らしいです。
特に、アチョ王子、犬の気品高さは美しいです。
物語がやや複雑で長いですが、じっくりと味わってほしい作品だと思います。 (レイラさん 40代・ママ 男の子20歳、男の子17歳)
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