『富士山にのぼる』などの重厚な山岳作品の多い石川直樹さんが、ヒマラヤ登山に欠かせない山岳民族シェルパの姿を感謝の気持ちを込めて描いた、山を登る過酷さを乗り越え、その頂に立った達成感を体感できる作品です。
ヒマラヤの麓で生まれ、毎日ヒマラヤを眺めて育った少年・ポルパ。ポルパは、ヒマラヤの山々に登るという夢のために、毎日思い荷物を背負って運ぶ、荷物運びの仕事をしていました。でもポルパが1人で行けるのは、氷河の入口まで。
いつかこのさきにいきたい、いきたい、いきたいなあ。
その夢が、遂に叶う日がやってきました! ポルパはテンジンおじさんたちにシェルパとして必要なことを教えてもらいながら、エベレストの山頂まで同行することになったのです。 ご存じの通り、エベレストは標高8849mもある世界一高い山。登山も一筋縄ではいきません。
富士山よりも2000mも高い標高5364mでのベースキャンプ作りに、危険な氷河越え。重い装備を身につけ、様々な道具とテクニックを駆使して、ようやく氷河を越えた後も、数々の難所がホルパを待ち受けています。「はーっ はーっ ふーっ」と何度も繰り返されるポルパ少年の呼吸音に、その過酷さが体感できるでしょう。
まさに命懸けの困難を乗り越えて、ようやく立つことができる山頂。「ここより高い場所はどこにもない!」という場所から眺める景色は、その見え方や、鳥たちの飛ぶ様子、太陽の温かさなど、見どころがいっぱいです。そしてなによりも心に響くのが、ホルパの努力が報われた瞬間。ガイドとして認められた時の喜び、自分の足で山頂に立った感動、危険な道を下山しベースキャンプに戻ってきた安堵感の様子など、ホルパの喜びを自分のことのように感じることができます。
「シェルパのポルパ」シリーズは、『シェルパのポルパ 冬虫夏草とおおきなヤク』、『シェルパのポルパ 火星の山にのぼる』へと続きます。ヤクのおはなしも気になりますが、「火星」っていったい!? ポルパの冒険譚が楽しみですね。
(中村康子 子どもの本コーディネーター)
シェルパの男の子、ポルパは、生まれたときからヒマラヤの山々をながめて育ってきた。毎日の荷物運びの仕事で体をきたえ、テンジンおじさんに認められたポルパは、念願のエベレスト初登頂をめざす。「ここよりたかいばしょは どこにもないぞ!」ヒマラヤ登山の縁の下の力持ち、シェルパの人びとに注目した新しい冒険絵本。
この絵本は、単に子どもたちがエベレスト登山を体験できる絵本ではありません。
作者の石川直樹さんは写真家であり、確かに2度もエベレスト登頂を成し遂げた登山家でもあります。子どもたちに登山に必要なロープやアイゼン、ピッケルの使い方を簡単に絵で教えてくれます。さらには高所順応のためのベースキャンプの設置や落ちたら確実に死んでしまうクレバスや氷河を乗り越える様子も描かれています。
「はーっ、はーっ、ふーっ」「はーっ、はーっ、ふーっ」。頂上を目指す主人公のポルパの息づかいが聞こえます。8千メートルを超える山から無事に生還するには、呼吸一つひとつも無意識ではなく、意識してする必要があります。
そこで見た雲海のうえに広がるピラミッドのようなエベレストの影は、実際に作者の石川さんが撮った写真にもありました。そして、ポルパがエベレストの頂上に立った時、言葉では説明できない感情が込み上げてきます。
こういった石川さん自身の登山体験をみんなにも実感してもらう絵本ではありますが、石川さんは何よりも「シェルパ」という存在をみんなに知ってもらいたいのだと思います。
エベレスト山脈という圧倒的な自然の麓で暮らす彼らの生活、登山者や観光客の荷物を運び、頂上を目指す人のサポートをし、同じ頂上に登り詰めながら主役ではなく脇役に徹する。命がけの仕事をして山を下りれば温かい食事と仲間が待っている。今、生きている実感こそが、本当の幸せなのではないでしょうか。
石川さんは、そんな「シェルパ」の生き方が大好きなのです。 (第7期絵本専門士hannahさん 60代・パパ 女の子11歳)
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