|
ハルばあちゃんの手を通して、歴史と社会が変わっていくなか、懸命に生きる女性の姿が浮かんでくる。その生涯を貫いた深い愛が大河ドラマのように胸に迫ってくる。簡潔で力強い文に、モノクロの鉛筆画の奥深い世界が展開されている。
中学校の美術の授業で自分の手を描く、そんな時間があった。その時に描いた絵はとっくにどこかに消えてしまったが、もし残っていたら私の手はどんなに変わっているだろう。
人生のさまざまを手に刻んできただろうか。
この絵本は山中恒が文を書いているが、絵を担当している木下晋の鉛筆画が印象的だ。
赤ちゃんのふっくらした手、少女のやさしい手、娘のなめやかな手、妻のそして母の強い手、そしておばあちゃんのしわだらけの手。
人の手はさまざまな経験をそこに刻んで変化していく。
山中の描く物語は海辺の小さな村に生まれたハルという女性の一生を描いたものだが、木下はそれを見事に絵に書き留めている。
ハルの左手にはほくろがあった。「器用で幸せになる」と村の人たちはいってくれた。実際そのとおりにハルは器用な少女に育つ。ハルがつくったかずらのつるで編んだかごが男の子と運命的な出会いをもたらす。
ハルが15歳の時戦争で父親がなくなる。母親も病気でなくなる。ハルの厳しい時代が始まった。「幸せになる」といういわれてハルは男にまじって働くしかない。
そんな時、あの男の子がハルの前に現れる。ユウキチは神戸でケーキつくりを修行しているという。嫁にするから必ずまっていてくれとハルと約束する。(このページにはハルの手は描かれていない。描かれているのは、ハルの瑞々しい顔だ)
ユウキチはなかなか迎えにはこない。ある日、突然現れて、ハルとユウキチは結婚をする。
ユウキチはケーキ屋さんになっていた。ハルは店を手伝い、店は繁盛する。
男の子が二人、成長して大学にも行った。しかし、店は継がないという。
やがて、ハルもユウキチも年をとる。ユウキチがなくなったあと、ハルは海辺の村へ帰って盆踊りの踊り手として、昔のように美しく踊るのであった。
最後、今までの白を背景にした絵が黒の世界へ変わる。まるでそれはハルの死出の旅のようにも見える。
ハルはなんと仕合せな人生を生きたことか。感動的だし、生きるということを深く考えさせられる作品である。 (夏の雨さん 60代・パパ )
|