パパは航海に出かけ、ママはお庭のあずまやで元気がなく沈んでいます。アイダは赤ちゃんの妹のお守りをしなければいけません。ところがアイダが魔法のホルンを吹いている間に、赤ちゃんはゴブリンたちにさらわれてしまいました。妹を連れ戻そうと、アイダは必死になります……。
緻密で美しいイラストがセンダック絵画の芸術性の高さを証明し、1982年米国コルデコット賞オナーほか、数多くの賞を受賞した作品。可憐な描写の中にあって映るゴブリン、誘拐、氷の赤ちゃん、洞窟などの暗い影は、グリム童話を想起させるような神秘性を生み出しています。怖いと感じる読者がいても不思議ではありません。 特にすでに人気を不動にしている『かいじゅうたちのいるところ』『まよなかのだいどころ』と合わせたセンダック三部作は、子供に本能的な恐怖を感じさせる作品群だと米国ではたびたび指摘されています。たとえば本作品は、表面ではさらわれた妹を音楽の音色に乗って無事取り戻すお話ですが、物語の発端はセンダックが幼児期に受けた「リンドバーグ赤ちゃん誘拐事件」(1932年3月1日)のトラウマにあるといわれています。社会情勢が不安定だった当時、米国の飛行家チャールズ・A・リンドバーグの20カ月になる赤ちゃんが何者かに誘拐・殺害された事件は全米中を震撼させました。誘拐・身代金要求激増の時代に幼児期を過ごしたセンダックは、その恐怖の日々から受けた外傷・内面心理を本作品に投影させたのでした。 それでもセンダック作品が小さな読者を魅了する理由は、恐怖も真実であるという普遍性にあるのでしょう。怖いものを隠して虚偽を行うよりも、怖いものも存在することを示す方が子供には伝わるということですね。 美しさと怖さと不思議さが一緒に佇む密度の濃い絵本です。この一冊に出会えてよかったときっと実感できますよ。 ――(ブラウンあすか)
2002年に福音館書店より限定復刊されましたが、再度品切れ重版未定となっています。
アイダはゴブリンにさらわれた妹を取り返しに、まどのそとのそのまたむこうへ出ていきました。パパが不在の間の少女の内面を見事にイメージ化した絵本。
大人が読んでもこの本の雰囲気の怖さは否定できません。
世の中の絵本の多くが子どもにも大人にも親しみやすい楽しさがあると、勝手に考えていましたが、この本によってそれは覆されました。よい意味で衝撃を受けた一冊です。
正直にいうと、絵が不気味です。でも、緻密でとてもうつくしい。うつろなお母さんの表情、ゆうかいされる赤ちゃんなど、恐怖感がただよっていますが、世の中にはこんなこともあるんだよと暗示しているんですね。
最後の場面は、心の安らぎがあたえられます。どんなことがあっても強く生きなければという意志と勇気が感じられました。子どもにもぜひ読ませるべき本だと思います。 (けいご!さん 30代・ママ 女の子8歳、男の子4歳)
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