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自然の命を味わおう
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投稿日:2024/11/17 |
絵本作家・あべ弘士さんの作品が好きです。
あべさんは、元旭山動物園の飼育員をされていた経験を活かして
代表作の『あらしのよるに』をはじめ、動物たちを生き生きと表現できる人気絵本作家です。
そんなあべさんの作品群からすると、
この『ギアナ・夜間飛行』は異色作といえます。
何しろ、動物たちがほとんど登場してこないのですから。
タイトルにある「ギアナ」は、南アメリカ大陸北部に位置するギアナ高地のこと。
あべさんがこの高地を旅して、そこから生まれたのがこの絵本です。
ギアナ高地では年間を通じて大量の雨が降るそうです。
それで山が削られ、不思議な形の山・テーブルマウンテンが出来たそうです。
この絵本にもその不思議な山が描かれています。
この絵本は「ヒコーキきょうだい」がそのギアナの空を飛ぶ冒険話になっていて、
彼らが見た大自然のすごさに圧倒されます。
ここにはあべさん得意とする動物たちの姿が描かれていませんが、
まるで竜のように力強く流れる川や満天の星に
命そのものの強さを感じます。
表紙裏と裏表紙裏の見返しに、これはたぶんあべさんが旅行の際にスケッチされたのでしょう、
いくつもの素描が掲載されていて、
あべさんの絵本が生まれるその瞬間を感じられるようになっています。
さあ、あなたもギアナの夜間飛行の旅にでましょう。
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冬のはじまりにこの一冊
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投稿日:2024/11/10 |
「落葉」は冬の季語です。
てのひらにすくへば落葉あたたかし(中岡 毅雄)
『俳句歳時記 第五版』の冬の部の、季語の解説にこうあります。
「天気のよい日の芳ばしいような匂い、散り重なったものを踏む音など、俳句にとどまらず詩情を誘う。」
この文そのままに、絵本の世界でも落葉の魅力が存分に味わえる一冊がこの『おちば』。
絵本作家で漫画家でもある、おーなり由子さんが文を書いて、
夫のはたこうしろうさんが絵を描いています。
おーなりさんのリズム感ある文章がとてもよくて、詩を読んでいる、そんな感じ。
「かさこそ、ぱり、ざく、こそそ、がさっ・・・」
文が歌っているかのよう。
それにあわせるように、はたさんの絵がいい。
「あかいはっぱ、きいろいはっぱ、とがったはっぱ、ちぎれたはっぱ」。
なんといっても落葉がきれい。
この絵本のように、落葉を山のように集めて、その上にジャンプする、
そんな夢のような場所はあまりないでしょうが、
絵本の中だったらそれを体験できます。
自分の体に舞い落ちてくる、たくさんの落葉たち。
見開き一面に真っている落葉の世界に、「だいがっしょうだ。」の一文が添えられています。
まさに、落葉たちの「大合唱」そのもの。
冬のはじまりに、こんな絵本の世界に浸るのも、いい。
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甘くて、ほっかほかのやきいもだよ
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投稿日:2024/11/03 |
「い〜しや〜きいも〜 おいもっ」
そんな呼び込みの声を最近聞きません。
その声を聞いて「やきいも屋さ〜ん!」と走り出すのは、昭和の時代のサザエさんだけかも。
街で売り歩くやきいも屋さんを見かけなくなったかわりに、最近よく見かけるのが、
スーパーの入り口付近に置いているやきいもマシーン。(あの機械、なんていうのだろう)
まだそこで売っているやきいもを買ったことはないが、どこの店でも見かけるから人気なんだろう。
なんといっても、やきいもはおいしい。
そんなやきいもが絵本になりました。
それが杉原やすさんの『やきいもどーん』です。
表紙一面に、それこそ「どーん」と描かれている、やきいも。
やきいもにこんな太い眉とかごつい鼻とかはもちろんないのだが、
それがちっとも不自然ではないところがいい。
やきいもって、まさにこんな感じ。
公園のイベント会場で、最初はかわいいアイスやクレープに負けていたやきいもでしたが、
会場に冷たい風が吹き出すと、みんながやきいも目当てに集まりだします。
そんなやきいものお話。
杉原さんは4児の母でもある絵本作家。
ずっとやきいもの絵本を描きたかったんだとか。
この絵本を描くにあたり、熊本の(ここは杉原さんの地元)農園まで話を聞きに行ったとか。
そういう体験が、おいしい絵本を生みだす要素になっています。
この絵本を読んだら、あの焼きいもマシーンまで走り出したくなるかもしれません。
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ノックだけでドアを開けないように
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投稿日:2024/11/01 |
『星新一ちょっと長めのショートショート5』(理論社)。
表題作である「おのぞみの結末」をはじめとして、8篇の「ちょっと長めのショートショート」が収められた、児童書。
装幀・挿絵(それぞれの作品に挿絵がついています)は、和田誠さん。
『ショートショートセレクション』シリーズの場合、ひとつのお話に一枚の和田誠さんの挿絵でしたが、このシリーズでは2枚あったりして、こちらも「ちょっと多め」。
面白かったのは、「計略と結果」「夢の大金」「金色のピン」の3篇。
どうして面白かったかというと、この3つの作品の書き出しが同じところ。
「ノックの音がした。」
内容はまったく違うのですが、書き出しは同じで、「ノックの音」というところがいい。何かが始まりそう、そんな予感がする書き出し。
「計略と結果」では、ノックのあとに押し入ってきたのは逃亡犯。逃げ込んだ先は病院。そこの医者はピストルを突き付けられて絶体絶命。さて、どうなるか。
「夢の大金」も、ノックのあとに押し入ってきた二人組の男。この家に住んでいたのは生きることに絶望している老人ひとり。さて、どうなるか。
「金色のピン」の場合は、ホテルの部屋をノックしたのは隣の部屋の客。お金が足りないので貸して欲しいという。その客がお金の変わりにくれたのが金色のピンで、これには不思議な力があるという。半信半疑の二人の女性たちは、しばらく会っていない男に会いたいと願う。さて、どうなるか。
ノックの音だけで、あまりドアを開けない方がいい、かも。
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誰にもあったはず、こんな日々
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投稿日:2024/10/30 |
椰月(やづき)美智子さんのことは、この『しずかな日々』という作品を読むまで、
もっといえば田村文さんが『いつか君に出会ってほしい本』で紹介していて、初めて知った。
デビュー作『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞(2002年)、
そのあと2006年に発表した『しずかな日々』で第45回講談社児童文芸賞と
第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞している。
つまり、これらの作品でいえば児童文学者ということになるのだが、
その後の著作をみていくと大人向けの作品も書いているから幅広い。
この『しずかな日々』も小学5年になった「ぼく」が主人公であるから、児童文学の範疇だとは思うが、
視点は「ぼく」が大人になってその頃を振り返る回想になっているから、
大人の読者もきっと感銘を受けるはずだ。
何故なら、どんな大人にも小さかった頃の自分がいるのだから。
小学5年の新学期が始まって、それまでおとなしかった「ぼく」に突然話しかけてきた男子がいた。
彼の名は押野君。実にのびやかな元気のいい男子。
押野君に誘われるまま、「ぼく」は初めて草野球をすることになる。
「ぼく」の父は生まれて間もなく亡くなった。なので、母と二人の生活だ。
その母がなんだか奇妙な仕事を始めて、「ぼく」は母の父親、つまりはおじいさんの家で
二人で暮らすことになる。
おじいさんが暮らす、大きな、古い家。
そこで「ぼく」はなんとものびやかな時間を暮らすことになる。
何か事件が起こるわけでもない。書かれているのは、もしかしたら誰もが経験したかもしれない、
小学生の頃の夏休みの時間。
でも、どうしてだろう、とっても懐かしい、けれど、それは戻っては来ない日々でもある。
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あの名作はここから生まれた
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投稿日:2024/10/27 |
今日は世界で一番有名なクマの絵本のお話をしましょう。
誰もが大好きな「くまのプーさん」の話です。
でも、その絵本『プーさんとであった日』は、プーさんのお話というより、プーさんという物語が生まれた誕生秘話のお話です。
絵本の順序とは少し逆となりますが、『くまのプーさん』のことを少し書きましょう。
作者はA・A・ミルンという英国の人。1926年に発表された児童書です。
ミルンの息子のクリストファー・ロビンが持っていたクマのぬいぐるみに着想を得て、書かれたといわれています。
この作品の原題は「Winnie-the-Pooh」で、実は「Winnie(ウィニー)」と呼ばれていたクマが本当に当時のロンドン動物園にいました。
そう、この絵本の描かれているクマこそ、その「ウィニー」なのです。
絵本のはじめに戻りましょう。
どのようにして、「ウィニー」がロンドン動物園にやってきたか。
当時ヨーロッパでは第一次世界大戦が起こっていて、カナダからもたくさんの兵士は出兵していました。その中に、ハリーという獣医師がいました。彼は出兵の途中で一匹の子熊と出会います。
あまりの可愛さに子熊を連れて海を渡っていきます。けれど、やはり大きくなったクマを戦地までは連れていけません。ハリーは仕方なくクマをロンドン動物園に預けていきます。
このクマこそ、のちにクリストファー・ロビンに出会うことになる「ウィニー」なのです。
実はこの絵本にはさらに驚くようなお話があります。
この絵本の作者、リンジー・マティックさんはあのハリーのひ孫にあたるのです。
絵本のおしまいには、ウィニーと遊ぶクリストファー・ロビンの写真なども収められています。
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朝ドラの舞台でもある糸島を満喫できる物語
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投稿日:2024/10/18 |
福岡の最西部に位置する、糸島。
NHKの朝の連続テレビ小説(通称 朝ドラ)の第111作となる「おむすび」の舞台で、
自然豊かな糸島の風景を目にした人も多いはず。
その糸島を舞台にした児童文学があることを、
田村文さんの『いつか君に出会ってほしい本』で知った。
それが、歌人で作家でもある東(ひがし)直子さんの『いとの森の家』だった。
東さんはこの作品で、2016年に第31回坪田譲治文学賞を受賞している。
物語は福岡市内の団地から糸島に引っ越してきた小学4年の女の子、加奈子ちゃんが
糸島の自然とそれで暮らす人々との交流を描いたもの。
引っ越してまもなく、通学路一面に蛙の死骸が散乱して気分がわるくなる加奈子だが、
そのうちにオケラにも触れるし、ホタルの乱舞にうっとりとしたり、
豊かな自然のなかで生き生きとしている。
朝ドラ「おむすび」でも一面の田んぼや畑の中の道を自転車で走る主人公が描かれているが、
この物語の加奈子もそんな生活だったのだろう。
加奈子がそこで出会う人のなかに、死刑囚の慰問をしているハルおばあさんがいる。
ハルおばあさんがしていることを通じて、
加奈子は罪とか許しとか死とか命とかを考えることになる。
しかし、父親の転勤でやがて加奈子たち一家に糸島を去る日がやってくるのだ。
東さん自身が小学生の時に一年ほど糸島に住んだ体験をもとに書かれたこの物語は、
東さん自身の思い出がうまく合わさった、感動作だ。
ちなみに、田村文さんはこの物語を紹介するにあたり、
「命の重さに向き合う」と、タイトルをつけている。
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どこの国であっても人には変わらない思い出がある
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投稿日:2024/10/13 |
この『トウモロコシのおもいで』という絵本の作者名をみて、
どこの国の絵本か、わかったでしょうか。
早秋丸。すべて漢字の、早秋と丸の間にすこしスペースがあるから、姓と名?
日本の絵本? でも、作家の小川糸さんが訳とあるから、日本ではないな。
だとしたら・・・、そう、この絵本は中国の絵本です。
早丸 秋はザオチウ ワンと読みます。
この絵本が絵本デビュー作となるそうです。
中国の、これは田舎のお話。
一面みどり色の田んぼや畑ばかりのところで、
おばあちゃんとその孫娘の、楽しいトウモロコシとりの思い出。
虫を見つけたり、トウモロコシの葉で腕が傷ついたり、
おばあちゃんがトウモロコシをもぎとる音がしたり、
おんなの子には忘れられないことばかり。
でも、おばあちゃんは年をとって、どんどん忘れることが増えています。
あの日、先を行くおばあちゃんがおんなの子を振り返って、
「あなたのことを、わすれたりするものですか」と、言ってくれたのに。
どこの国の人であっても、誰もが年老いて、美しい思い出さえも忘れていくことがあります。
でも、その人のことを覚えていてくれる人がいるかぎり、
その人と過ごした美しい思い出は消えません。
国は違えども、人のそんな思いは違わないのでしょう。
中国の、美しい絵本にそんなことを教えてもらいました。
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右から読んでみて
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投稿日:2024/10/06 |
この『みしのたくかにと』は、2022年1月に亡くなった児童文学者の松岡享子さんが、
1972年に刊行された作品で、発表当時は「みしのたくかにとをたべた王子さま」でした。
その作品がタイトルを変え、新たに刊行されたのが1998年ですから、
長く読み継がれている童話といえます。
このお話を知ったきっかけは、
<スーパー書店員>である森田めぐみさんの『書店員は見た!』という本で、
その中で、森田さんが子育てに悩む人への一冊として
この本をすすめていたことから。
なんといっても、このタイトル、『みしのたくかにと』が気になります。
どういう意味? って、誰もが思うのではないかしら。
ヒントは、昔の読む方。
昔は横書きの文章って、右から左に読んでました。間違って、そんな風に読んだのが王子さま。
今の読み方にすると、ね、「とにかくたのしみ」ってなるでしょう。
ある国の王子さまがとっても窮屈な生活を強いられていて、
たまたま村に出向いた時に「とにかくたのしみ」と書かれた立て札を見つけます。
でも、王子さまはそれを反対から読んでしまったのです。
「みしのたくかにと」って何だろう。
この立て札を立てたのは、村のふとっちょのおばさん。
何かわからないタネを見つけて、育てていたのです。だから、「とにかくたのしみ」。
このおばさんのおかげで王子様は元気になるお話。
子供には無理強いはしない、自由にさせるのが一番、
それでどんな大人になるか、「みしのたくかにと」。
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寄り道してもいいんだよ
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投稿日:2024/10/03 |
2024年の課題図書「中学校の部」に選ばれた一冊。
『アフリカで、バッグの会社はじめました』という長いタイトルに
「“寄り道多め“仲本千津の進んできた道」と、これまた長い副題がつきます。
書いたのは、雑誌の記事などを書くライターの江口絵理さん。
女性二人の名前があってややこしいが、
社会起業家である仲本千津さんが歩んできた道を江口絵理さんが丁寧な取材で
まとめたドキュメンタリー作品。
しかも、本には「“進路決定”ドキュメンタリー」なる言葉も並んでいたりします。
そんな本が中学生を対象にした課題図書に選ばれるということは、
現代の中学生はもうその頃から自分の将来の進路を考えはじめるのでしょうか。
でも、この本の主人公ともいえる仲本千津さんは、
最初からアフリカでバッグを作ろうと決めていたわけではありません。
どころか、そこにいたるまでは何度でもなりたいものを変えています。
最初は医学部、それは諦め、次は国連で働こうと、でも、まだぼんやり。
大学卒業して就職したのは銀行、それでも海外の憧れが強く、
アフリカ支援NGOに籍を移します。
そこで出会ったのが、アフリカのウガンダの国。
そして、会社経営なんかしたこともないのに、ウガンダでバッグを作って売り出すことに。
これが日本で大ヒットになったというわけ。
なので、この本は決して”進路決定“を求めるものでもなくて、
むしろ迷っていいんだよと肩をたたいてくれる作品になっています。
ただ、仲本千津さんの素晴らしいところは、常に前を向いていたこと。
そんな勇気をくれる、一冊です。
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